目次
依頼のトラブルの多くは、「最初に決めていなかったこと」から起こります。
- 「修正は何回でもしてもらえると思っていた」
- 「グッズにして売るのはダメだったの?」
- 「途中でやめたいのに、全額払わないといけないの?」
こうしたすれ違いを防ぐために、依頼を受ける条件を「依頼の規約(ご依頼にあたってのお願い)」として事前に公開しておくクリエイターが増えています。
この記事では、規約や契約で決めておきたい10のポイントと、企業から依頼を受けるときに知っておきたい「フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス法)」の基本を解説します。
この記事は2026年10月12日時点の情報をもとにした一般的な解説です。個別の契約内容については、弁護士などの専門家にご相談ください。
規約・契約で決めておきたい10のこと
作業の範囲何を、どこまで作るか
- 1. 受ける依頼・受けない依頼
- 4. 修正(リテイク)
- 10. 禁止事項
お金と納期いつ、いくらで
- 2. 料金と支払い
- 3. 納期
- 9. キャンセル
作品の使い方誰が、どう使えるか
- 5. 利用範囲
- 6. 著作権
- 7. クレジット表記
- 8. 実績としての公開
1. 受ける依頼・受けない依頼
受けるジャンルと、受けない内容(例:実在人物、特定のジャンル、他の作家の作風を真似る依頼 など)を書きます。「お受けできない場合は理由をお伝えせずにお断りすることがあります」と添えておくと、断るときの心の負担が減ります。
2. 料金と支払い
- 料金表(または「個別にお見積もり」)
- 支払方法(銀行振込、決済サービスなど)
- 支払時期(先払い/後払い/着手時と納品時の分割)
- 振込手数料をどちらが負担するか
3. 納期
- 納品の目安(「ご入金から3週間」など)
- 遅れる場合の連絡方法
- 依頼者側の返信が遅れた場合は、そのぶん納期が後ろにずれること
4. 修正(リテイク)
最もトラブルになりやすい項目です。どの段階で、何回まで、どの範囲なら無料かを具体的に決めましょう。
- 例:「ラフ段階で2回まで無料。線画以降は軽微な修正(色味の調整など)のみ1回まで」
- 例:「構図やポーズの大きな変更は、線画以降は追加料金をいただきます」
5. 利用範囲(どう使ってよいか)
依頼者が作品をどこで・どう使えるかを決めます。
- 個人での利用(SNSのアイコン・ヘッダーなど)
- 配信・動画での利用(収益化を含むかどうか)
- グッズ化・販売、広告での利用(別途相談とするのが一般的)
- 改変(トリミング、加工、色の変更など)をしてよいか
- 生成AIの学習やAIへの入力に使ってよいか
6. 著作権
ここは誤解が多いので、次の章でくわしく説明します。
7. クレジット表記
作品を使うときに作者名を表記してほしいかどうか。表記の形(「illust:○○」など)も決めておくとスムーズです。
8. 実績としての公開
自分のポートフォリオやSNSに実績として載せてよいか、いつから載せてよいか(例:依頼者が公開した日以降)を決めます。非公開を希望される場合の料金も決めておくと安心です。
9. キャンセル
- 依頼者の都合でキャンセルする場合:着手前は全額返金、ラフ提出後は○%をいただく、など
- 制作者の都合(病気など)で制作できなくなった場合:全額返金する、など
- 依頼者と連絡が取れなくなった場合:○日以上返信がなければキャンセル扱いにする、など
10. 禁止事項
- 作品の転売、自作発言
- 規約で認めた範囲を超える利用
- 無断での改変・トレース素材としての利用
著作権は「譲渡」と「利用許諾」の違いを押さえる
依頼で作った作品の著作権は、特に取り決めがなければ、作った人(あなた)にあります。依頼者がお金を払ったからといって、自動的に著作権が依頼者に移るわけではありません。
| 利用許諾(ライセンス) | 著作権の譲渡 | |
|---|---|---|
| 著作権を持つ人 | あなた(制作者) | 依頼者 |
| 依頼者ができること | 決めた範囲で使える | 原則として自由に使える |
| あなたができること | 自分の作品として扱える(実績公開など) | 原則として自由には使えなくなる |
| 料金の考え方 | 利用範囲に応じて設定 | 高めに設定するのが一般的 |
個人からの依頼の多くは「利用許諾」で十分です。著作権のしくみはイラストの著作権の基本でさらに詳しく解説しています。企業から「著作権を譲渡してください」と求められたときは、次の点を確認しましょう。
- 譲渡する範囲:著作権法では、翻案(作品をもとに別の作品を作ること)などの権利は、契約で「譲渡の対象になっている」と特に書かれていなければ、譲渡した側に残ると推定されます(著作権法第61条第2項)。契約書に「著作権法第27条及び第28条の権利を含む」と書かれていたら、それらも含めて譲渡するという意味です。
- 著作者人格権:作者の名前を表示する権利や、作品を勝手に改変されない権利(著作者人格権)は、他人に譲渡できません。そのため契約では「著作者人格権を行使しない」という約束を求められることがあります。どこまで改変されてもよいかを考えたうえで同意しましょう。
- 実績公開:譲渡したあとも、ポートフォリオに載せてよいかを確認しておきましょう。
- 対価:譲渡は利用許諾より依頼者が得る権利が大きいので、その分の料金を設定します。
規約テンプレート(個人向けの依頼の例)
【ご依頼にあたってのお願い】
■ お受けしているご依頼
アイコン(バストアップ)、立ち絵(全身)
※ 実在の人物、他の作家さまの作風の模倣はお受けしておりません。
■ お支払い
ご依頼内容の確定後、7日以内に先払いでお願いいたします。
ご入金の確認後に制作を開始します。
■ 納期
ご入金から3週間程度が目安です。
ご返信が遅れた場合、そのぶん納期が後ろにずれることがあります。
■ 修正
ラフ段階で2回まで無料で承ります。
線画以降は、色味などの軽微な修正のみ1回まで承ります。
■ ご利用範囲
・SNSのアイコン・ヘッダー、配信・動画でのご利用(収益化を含む)
・トリミングや文字入れなどの加工
・グッズ化・販売・広告でのご利用は、別途ご相談ください。
・生成AIの学習や、AIへの入力(読み込ませること)はご遠慮ください。
■ 著作権
著作権は制作者に帰属します。ご依頼者さまには、上記の範囲でご利用いただけます。
■ 実績としての公開
納品から30日後、またはご依頼者さまの公開後に、制作実績として掲載させていただきます。
非公開をご希望の場合は、ご依頼時にお知らせください(別途料金がかかります)。
■ キャンセル
・制作開始前:全額返金いたします。
・ラフ提出後:料金の50%を申し受けます。
・ご連絡が30日以上取れない場合は、キャンセルとさせていただきます。
・制作者の都合で制作できなくなった場合は、全額返金いたします。
■ 禁止事項
作品の転売、自作発言、トレース、上記の範囲を超えるご利用
※ 内容は例です。ご自身の依頼の受け方に合わせて調整してください。
企業から依頼を受けるなら知っておきたい「フリーランス法」
2024年11月1日に施行された「フリーランス・事業者間取引適正化等法」(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、フリーランスが安心して働けるように、仕事を発注する事業者に義務を課す法律です。
どんな取引が対象?
- 受ける側:従業員を雇っていない個人(または一人社長の法人)のフリーランス
- 発注する側:事業者(企業や、事業として依頼する個人)
公正取引委員会のQ&Aでは、個人が消費者として依頼する場合は「事業のため」の委託にあたらず、対象外とされています。つまり、ファンが個人的に楽しむために依頼してくれた場合は、この法律の対象にはなりません。企業やVTuber事務所、事業として活動している配信者などからの依頼が主な対象です。
発注者が守ること(主なもの)
1. 取引条件をはっきり示す(明示義務)
発注者は、依頼をしたら直ちに、次のような取引条件を書面やメールなどで示さなければなりません。これは従業員のいない個人の発注者にも求められます。
- 発注者とフリーランスの名称
- 業務を委託した日
- 業務の内容(何を作るか)
- 納期(給付・役務提供の期日)
- 納品の場所(データ納品なら納品の方法など)
- 報酬の額と支払期日
- 検査をする場合は、検査を終える日
- 現金以外で支払う場合は、支払方法に関すること
条件がはっきりしないまま進みそうなときは、「お手数ですが、金額・納期・お支払期日をメールでいただけますか」とお願いして大丈夫です。
2. 支払期日は納品から60日以内
従業員を雇っている発注者(特定業務委託事業者)は、成果物を受け取った日から60日以内のできるだけ短い期間で支払期日を決め、その日までに支払わなければなりません。
3. 禁止されている行為
一定期間以上の業務委託では、発注者が次のような行為をすることが禁止されています。
- 受け取りを拒む(受領拒否)
- 後から報酬を減らす(報酬の減額)
- 納品物を返す(返品)
- 相場より著しく低い報酬を一方的に決める(買いたたき)
- 指定する物やサービスを無理に買わせる(購入・利用強制)
- 不当に金銭や労務を提供させる
- 費用を負担せずに内容を変えさせたり、やり直させたりする
このほか、6か月以上続く契約を途中で解除したり更新しなかったりする場合は、原則として30日前までに予告することなども定められています。
困ったときの相談先
発注者とのトラブルに困ったら、厚生労働省の委託で第二東京弁護士会が運営する「フリーランス・トラブル110番」に無料で相談できます。弁護士に相談でき、和解あっせんの手続きも無料で利用できます。報酬の未払いについては報酬の支払いが遅れたときの対処法でも解説しています。
決めた条件は「案件ごと」に残しておく
規約を公開していても、実際の依頼では「この案件だけ修正3回まで」「この案件はグッズ化OK」のように個別の条件が加わることがよくあります。案件ごとに、合意した条件をあとから確認できる形で残しておきましょう。
Citrushub CRM では、案件ごとに金額・納期・支払期日に加えて、条件や内容のメモを残せます。企業のPR・タイアップ案件なら、投稿予定日や掲載URL、PR表記を確認したかどうかも記録でき、確認したことは履歴に残ります。「あの案件、どういう条件だったっけ?」をすぐに確認できます。
まとめ
- 依頼の条件は「規約」として事前に公開しておくと、トラブルを防げる
- 特に、修正・利用範囲・著作権・キャンセルは具体的に決める
- 著作権は、決めなければ制作者のもの。譲渡を求められたら範囲と対価を確認する
- 企業などの事業者からの依頼には、フリーランス法の取引条件の明示や60日以内の支払いのルールがある
- 困ったら「フリーランス・トラブル110番」に無料で相談できる

